家具の話

旧HPで書いた雑文。開業当初の若い頃の文です(汗)お暇ならお読みくださいませ。

私の思う良いテーブル
テーブルと言っても、ダイニング用や座卓、リビング用のコーヒーテーブル、広い範疇では学習机などもこの中に入るのかも知れません。

形も丸や四角、たまには三角なんかも作ったことがあります。脚も四本脚や板脚などなど様々ですが、結構多い注文なのです。

その注文の場合私としては極めてシンプルな長方形四本脚をまずお薦めして反応をみるのですが、まあ皆様、様々なお考えを持っていますね。
(だから注文家具屋に相談に来ている訳ですが・・・)

これまでのライフスタイルや考え方が各人、各家庭で違いお話を伺うとそれは楽しいものです。

でも、ご夫婦で考えが一致しない事も多々あり困惑してしまうこともあります。

テーブル以外の家具の場合はご夫婦でどちらかこだわりの強い方のお話を強く参考にしてプランを詰めて行く事が多いのですが、テーブルの場合は部屋の中心になりイメージをガラっと変えてしまう為十分話し合い、また私の個人的な思いもお聞き頂き、値段も含めた“良いテーブル”をおすすめしています。

私が思う良いテーブルとは、ダイニングテーブルに絞って言うと、まず「大きい事」で次に「年月と共に風合いの出る物」である事が重要で、その他はお客様のお好みで・・・と言う感じです。

「大きい」と言っても6畳の部屋に2000mm×1000mmのテーブルは無理ですが、お部屋の中で可能な限り大きいテーブルが使い勝手が良いと思っています。

さっきも書きましたがテーブルは部屋の中心になり、またここに家族の皆が集まってくる団欒の場なのです。

もちろんテーブルですから最も大切な事は食事ですが、その他にも小さいお子様が居るご家庭ではお絵描きや工作などもここでやりますよね。

お母さんは食事の他、家計簿付けやちょっと一休みの雑誌を見る時間にも、そのほかにも趣味の製作や裁縫などにもこのテーブルを使っている方が多いのでは?と考えます。

それと、その他の家事でも大きいテーブルは大活躍です。

私は男ですので日常的には家事をやっていませんが苦手な洗濯物たたみや仕分けにテーブル一面を使い、済ませます。

お父さんはテーブルが広ければ新聞も大きく広げて読めるのです。家では満員電車の様に小さく新聞を折り畳まず読みたいと思いませんか?

その他、来客が来た折には広いテーブルに感謝すると思いますし、良いテーブルなら自慢にもなります。

そんなこんな色々とありますが、多目的にテーブルを使う場合、普通のテーブルより“ちょっと低目”が良いのです。

既存の椅子との兼ね合いもありますが、だいたい2~4センチ低い65~68センチという高さが非常に具合が良いのです。

低いので圧迫感が無いし、リラックスして多用途に使えます。

冬場に嬉しい鍋の時なんか、テーブルが低ければ立ち上がらなくても具がちゃんと見えるのです。

それと、もう1点の「年月と共に風合いの出る」点ですが、これは昔見たテーブルが強く印象に残っているのです。

それはもう10年以上前で家具を作る以前の事で、詳細は忘れてしまいましたが、そのテーブルは1枚の写真に載っていました。たぶん雑誌に載っていたような記憶があります。

大きさはたたみ1畳程でアメリカかヨーロッパの農家の食卓テーブルでした。
農家といっても調度品やそのテーブルを見ても豪農ではなく、その当時は一般的で、今と比べればかなり質素な感じなのですが、石敷きの床の食堂に置いてあるそのテーブルは4枚ほどの板が数ミリの隙間をおいて並べただけの天板で、きっと農作業の合間か冬の農閑期にでも手作業で作ったものなのでしょう。

どうみても良質ではない針葉樹の松かなんかで素人が簡単に作った物なのですが、美しいのです。
きっと製作してから50年~100年は経ったのでしょう。
角は擦れ丸くなり、天板は無数の大小の傷がありボロボロなのですが、長い年月に付いた色が深く染み込み、大事に手入れされながら使われてきたことが想像出来ました。

この1枚の写真が私の中でベースとなっているのです。
それは家具作りのベースでもあり、自分の思い描く生活のベースでもあるのです。

今の日本では安価で安直な製品を大量に生産して、安いがうえに簡単に購入し、簡単に廃棄するという生活、何の不思議にも思わずそんな生活を過ごしてきた自分を恥、このようなテーブルのある生活の方が本当は豊かなんだと感じたのでした。

実際、現在の日本で質素、倹約に努め良品を永く使うという生活は難しいのかもしれませんが、どこか頭の片隅において置ければよいのでは・・・と感じています。

そのような理想のテーブルの姿が私の頭にはあるので、お客様からご注文を頂き、そして納品の折には「細かいキズなど気にしないで、おおらかな気分でお使い下さい」とアドバイスしています。

お手入れも理想を言えば年1回はオイルを塗ってあげた方が良いのですが、それも使う人の気分で気になってきてからでも大丈夫、故障の心配はありませんと言っております。

だってプロの我が家で使っているオイル仕上げの座卓も、かれこれ3年以上な~んにもお手入れせず毎日水拭きをしていますが問題はないのですから・・・。


 【テーブルの製作】

これは何といっても材の選択に尽きると言ってもよいでしょう。これを間違えると雰囲気が全然変わってしまいますし材の使い方によっては故障の原因にもなってきます。

一般的には天板もしくは甲板と呼ばれる板は高齢、大径木で素直な木目のものが良いと言われていますが、私のような極小事業所では豊富な在庫も持てない為、手持ちの材から最適なものを選び出す訳です。
普通は矧ぎ合わせと言って、数枚の板を幅方向に接着して天板を作るのですが、その時の材選びには本当に苦労します。

天然物の板は、長さこそ基準がありますが、幅なんかはバラバラだし、木目にいたっては同じ樹から板にしても変わってくるほど千差万別で選択には知識・経験と共に勇気や根気も必要です。

時には数枚の板を前にして腕組をして数時間考え込んでしまうこともあります。いや数時間というのは大げさですが悩み始めたら進まないので、大事な天板は後回しにして脚や貫きなどの部材の木取りを済ませてから、再度天板予定の材に戻りベストな選択を考えるのです。

でも、なかなか合う板って少ないのです。まず最初にテーブル幅を均等に分けた幅の板を選びます。この場合幅は家具のカタログなどでは奥行きと書かれている寸法で「テーブルの対面する方向」を指します。天板の幅が800mmなら400mmの板2枚か267mmの板3枚もしくは200mm板4枚となる訳です。

幅が800mmなので350+350+100ではバランスが悪くなってしまいます。
なるべく等しい幅で木目が素直で似た色であり、節や白太と呼ばれる辺材が入ってない板が望ましいのですが、そんな条件の合う物って少ないのです。

言ってみれば容姿端麗、性格も良し、そしてお金持ちの結婚相手を探すようなものです。

こんな「良い例」を出せば苦労が分かってもらえますよね・・・?

さて、そんな伴侶 じゃなくって天板が見つかったら、組み合わせを考え、軽く表面を削って放置し様子を見るのです。それをシーズニングと言っていますが、その間に反る性質のあるモノは反らせ、曲がる性質のあるモノは曲がらせて、製品後の狂いを最小限にするのです。

私の場合はシーズニング期間を最低でも2週間はみています。

そして、製作に入るのですが、もうこの状態で仕事の70%位は終わっていると言えるでしょう。あとは図面通りに正確に加工すれば良いのですから・・・。

ああ、テーブル製作で重要な部分を忘れていました。
それは正確な加工で作ると言う部分ですが、テーブルには天板の伸縮を逃す「吸い付き蟻桟」という部材を天板下に2本取り付ける事があるのですが、これが難しく細心の注意を払い加工しないと、その用をなさないのです。

天板裏面に台形の溝を掘ってそれに合わせて削った棒材を滑り込ませる構造なのですがスーと全体の5分の4入って最後の1を押し込めるという微妙な感覚に仕上げなければ効きません。

仕事の波に乗って半日仕事、調子が悪いと1日いっぱい掛かる事があります。

それもこれもオイル仕上げのテーブルの場合、梅雨の湿度の高い時と、真冬のカラカラに乾いた季節では幅で3~8mm程度伸び縮みしている為、それに対応するにはこういった加工をしなければ壊れてしまうのです。

ほんとに厄介な仕事ですが、それが木工の醍醐味であり、達成感・満足感に繋がる部分だと思いながら加工をしています。



難しい椅子
椅子は色々な要素が複雑に絡み、なかなか難しい製作物です。

現在、数点デザインし時間のある時に試作をして製品化したいと思っているのですが、いろいろと自分に言い訳を付け、図面止まりで試作に入れないでいます。

展示会でも決まれば重い腰を上げ製作に入るのですがね。

 椅子をデザインするうえで、重要な点は「スタイル」「強度」「座り心地」 そして「価格」だと思いますが、それらをすべてクリアするオリジナルの椅子が出来たら最高なのですが、世の中には星の数ほどの種類の椅子が存在するわけで、それらに似ないオリジナリティある椅子なんていうそんな無謀な挑戦をしても無理じゃないか?と最初から考えてしまう為製作が進まないのかもしれません。

そして最近は、公募展等で入選するような独自性のあるものを作るより、さっきも書いた「スタイル」「強度」「座り心地」が一定レベル以上で「価格」もそこそこの椅子で“若干”私の個性が感じられれば、それでOKなのでは?と思っているのは、ここの所あまりにも椅子の受注が少なく弱気になっているからでしょうか?

 これまで作った椅子で自分の中での自信作はリビング用の安楽椅子で、座はクッション材に布張りで背はウォールナットのスピンドル(丸棒)の椅子です。

両肘で作れば1人用、片肘で2個作ればベンチ(ソファー)にもなるもので、フレキシビリティな所と座り心地の良さは市販のソファーと比べても遜色ないし木の質感が活かされていて良いと思っています。

実際に展示会でもご好評を頂いているのですが、価格がネックになっているのか?なかなか注文が取れません。
それと、ダイニングチェアーではペーパーコード張りで3本の横背板の椅子がお気に入りです。

これは、北欧風でシンプル、軽量、高耐久性+座り心地と言うコンセプトでデザインして製作したもので、それらに充分及第点を与える出来だと思っていますが
ダイニングチェアーとしては若干価格が高い為ダイニングセットでのお買い上げが少ないのが残念な点です。

まあ、値段が巨匠ウェグナーの“Yチェアー”のブナ製より数千円しか安くないのでは皆さん一寸考えてしまうのもしょうが無いところです。(内緒ですが複数ご注文の場合は大幅値引きをしているのですよ)※現在(2017)年はYチェアー値上げの為 だいぶ価格差があります。
 
【椅子の製作】

椅子の製作工程は①デザイン→ ②図面(1/5縮尺)→ ③縮小モデル製作→ ④原寸図面→ ⑤原寸角度用椅子製作→ ⑥実物の製作→ ⑦問題があれば修正して再製作

以上の工程で進むのですが、書くだけでも面倒です。

ここまでやって売れなかったら悲惨です。家計は火の車です。

でも、頑張ってこれを続けて見本を作らないと、新たな注文が取れないと言う現実がある訳です。 そして木工家さんは日々貧乏暇なし状態が続くのでした。

シンプルな学習机
ウチの学習机、定番としてこれまで10数台、サイズや樹種、面取りなどを変え製作しています。

コンセプトは「子供の学習机から大人の書斎まで通用するシンプルなデザインで使うほどに味の出るモノを作ろう!!」でした。

 最初に学習机の注文をもらったのは身内で、姉の娘いわゆる姪っ子の為のものだったのですが、さて作ろうと意気込んでみたものの開業数ヶ月目の駆け出し木工家にはデザインはおろか構造も解からず困窮し、様々な書物やカタログそれと家具販売店に行って実物を見て調べたのでした。

 そこで感じたのは、小学校入学に合わせ購入する机はどう考えても大人が使えるデザインではない物がほとんどで、例えばそれらを買って子供部屋に置きその子供の父親がちょっとその机を借り仕事の資料の整理でもしている姿を想像すると、かなり無様な姿では・・・と考えてしまいました。

 これはもう造る側の人間が「子供の物なんだから、安くてとりあえずの実用性さえ満たしていればいいじゃないか。」それと「子供の机なんだから角をまる~くして安全にしておけば無難でしょ」てな感じでデザインしているとしか思えないほど画一的かつ価格も横並びでポリシーも個性も感じないものがほとんどでした。
(今では比較的個性のあるものも増えてきたようですが・・・)

 そこで、折角作るのだから小学1年生から大人になるまで飽きずに使えるデザインで、逆に使えば使うほどに古臭くならず味の出る素材で作ろうと考えたのです。

その為には、どんな機能が必要で、どんなサイズが最適か、構造はどうすればよいか等々考えたところ、やはり机の基本は四本足で浅い引き出しが2個付いているのを基本形とし、あとはお好みで本棚を隣に置いても良いし、引き出しを置くのも可で、それらは別々の方が後々応用が利き便利なのではないかと言う結論に達し、非常にシンプルな形の学習机の初期型が完成したのでした。

今の学習机と違う点は細かい部分の構造と、引き出しのツマミです。

構造は、駆け出しの浅はかさと言うしかないほどに稚拙で無駄に手間を掛けただけで、現在と比べると強度的には低いものでした。それでも浅い経験ながらも丁寧に作ったので、かれこれ10年弱ノントラブルなのが救いです。

もう1点はツマミで、当時は旋盤の技術もなかったので市販の陶器製のツマミを付けたのが今になっては後悔する点です。

今では丸も四角も掘り込みも何でも自分で作っています。
折角のハンドメイド家具、デザイン上重要な点であり個性の発揮できる部分を市販の物で済ませては意味がないんじゃないか!と考えるようになりました。

それと、忘れてはいけないのは椅子で、これは重要かつ難しいところなのであります。
子供から大人までの机なので椅子も同じコンセプトでOKと考えるのは浅はかで、無理があるのです。

そこで、無い知恵絞って私は考えたのですが、結論は「無理」でした。
一般的な学習机の椅子を参考に可変式の物を作るのは簡単ですが、その椅子に大人が座る姿を想像すると・・・・あぁこれも無様だな~と思うのです。

そこで大人が座れるデザインで子供にはちょっと無理してもらおうと言う、割り切りのシンプルデザインの椅子を作り今でもセットで販売しています。

割り切りと言っても小学生の頃ってほとんど机に向かい勉強ってしないものなんですよね。大体がリビング等の親の近くで宿題をやっているようです。
これまで販売した親御さんにアフターサービスの折などに聞くと異口同音にそうおっしゃっています。それと机じゃなくて物置だとも・・・。

まあ現実はそんな感じなので身体が大きくなってからしっくり来る椅子をセットにし、お薦めしているのですが、ほとんどのお客様はご予算の関係なのか?机のみの単品で注文されます。(私の苦悩は何だったのかって話です。)

【学習机の製作】
家具は、「箱物」と「脚物」に分けられるのですが、学習机は箱物寄りの脚物になります。
箱物とは、箪笥などの基本形が四角で引き出しや扉の付いた物を言います。
脚物は、テーブルや椅子などですね。

その両方を兼ねる訳ですから、初心者にはなかなか難しい製作物です。

最初の学習机の製作は経験不足の為かなり時間がかかったし、技術的な部分も手探りな状況でした。

構成は天板と脚そして引き出しになるのですが、天板は木目合わせや矧ぎと言われる幅接着が困難なところで、それと引き出し部の構造ですが、確実で強固な組み手と微妙な調節が初心者には難しい部分でした。

その後2作目3作目と作るに従い細かい部分の構造を見直し、強度アップと合理的な構造に改良していき、現在の形と構造になってゆきました。
そうして最近では、かなり自信を持ってお客様に勧めることの出来る作品の1つになったのです。

箪笥(チェスト)
これまで、小さいチェストは何個も作りましたが、大きないわゆる“箪笥”と言う物の受注は非常に少ないのです。

箪笥と言えば「桐箪笥」や漆塗り金具付きの「民芸箪笥」などが有名で、いまだに需要があるようですが、一般的には箪笥の必要性は減ってきているようです。
減るというよりも機能性のある安価な既製品で充分だと考える方が多いようです。

それは、最近の住宅事情で、寝室に大きな物置(ウォークインクロゼット)を作り、何でもそこに入れられるし、誰に見せる訳じゃないので機能的な物で充分だと考えるのでしょう。
高価な注文家具を本人以外見ない、暗いクローゼットには普通入れないものです。
これまであった“お古の箪笥”で充分なのです。

そして、お部屋の中心の居間や食堂などの家具に予算が回されるのですね。
例外的には居間にインテリアと収納を兼ねてチェストが置かれる場合もありますが普通はプライベートなお部屋に置くことが多いと思います。

箪笥とは、比較的構造や機能が決まってきてしまう家具の為、家具作家やデザイナーの個性が発揮しづらい物なのかも知れません。
逆にキャビネットは機能よりデザイン、インテリア性が重要で、力の出せる製作物でしょう。
私も箪笥を作るときは、まず機能から入ります。お客様の入れたいものの寸法と、おおよその数を計算し設計します。
その後、ツマミなどのパーツやディテールの部分で自分らしさを出そうと考えるのです。

【箪笥の製作

私としては、框組みの箪笥は結構作っていて楽しいし達成感があるので好きなものの1つです。
まず、木取りにおいては個性的な板よりも落ち着いた目の詰まった板を選びます。
これは板が反り変形したら引き出しがスムーズに開かないので、ここは充分に吟味しますがテーブル板の様に似た木目の組み合わせではないので、気分的には楽ですし時間も掛かりません。
ちょっと大変なのは引き出し前板で、ここが“顔”になるので、同じ板で全部揃えるか、上下などで似た板を探し組みあわせるかが思案のしどころなのであります。

そして製作に入るのですが、特にシーズニングは時間を掛けます。 
シーズニングとは材の荒木取りから加工までの時間で、ここで焦って直ぐ加工を始めてしまうと板が動いてしまうのです。加工精度も悪くなるし、製品後も問題が出てしまいます。
その為その期間を2週間以上みています。

無垢材家具ってそこが肝要であり、面倒なところなのです。
例えば、狂いのない規格に沿った材が直ぐ手に入り加工が出来れば、かなり安く作れるし何も悩むことがないのですが・・・。
まあ、それは叶わぬ夢で、そこがなければ木の良さもないのです。

シーズニングが終わったら加工に入るのですが、もうこれは確認・確認また確認なのです。
加工精度が製品のクォリティーに直結するので慎重にやります。
角ノミという機械、四角いホゾ穴を掘る物ですが、これはズレ易く精度が出にくいので、数個相対する穴をあけたら確認、そして加工、確認という感じに慎重にやります。

そして部材が出来たら組み立てなのですが、これは面白い!!木工・家具作りの醍醐味って感じです。
丁寧に加工すればプラモデル感覚で短時間で形になってゆきます。しかし失敗があると大変で大慌てで部材の再加工をしなければいけません。
工房立ち上げ直後はこの状況で「ああぁ~違った!!間違った~」って頭を抱え絶叫!!なんてことがよくありました。

組み立てが終わったら次は引き出しの製作です。
普通、図面通りに同時進行で引き出しも作っておけば一緒に完成するのにと思うかもしれませんが、これが無理なのです。
出来上がった本体に合わせ引き出しを加工しないとピッタリといかないものです。
その為、各引き出しに番号などをふってあり、合わないところに入れると微妙にガタでたりしますので、お気をつけ下さい。(市販品は寸法さえ合えばどこに入れても大丈夫!!だってどの引き出しも余裕がありますもの・・・)

スツール

まず、スツールと言うと、背もたれのない、もしくは小さく、簡易的な椅子と言えるでしょう。 

椅子にとって背もたれ部はデザイン的にも構造的にも重要でこの箇所で全体が決まってくるものと考えています。 その為“その重要” な部分がないスツールは比較的自由にデザインが出来、そして製作も容易と言えます。したがって価格も抑えられ、お客様にとって気軽にお買い求めできる“きっかけの家具”になるのです。
まずは多用途に使えデザイン性の高いスツールから手作り家具の良さを解って頂けたらな~等と考えながら作っています。

 これまで定番や単品で数多くのスツールを作ってきましたが“座る機能”+αを組み込んだ物を多く作ってきました。 座る機能に重点をおいたスツールをなぜ作らないかと言うと背もたれのない(小さい)椅子はどんな頑張っても安楽性は高くならないので、それなら座り心地は程々でも多用途の方がいいんじゃないの と言う事です。
その為、座は板の場合掘り込まずフラットにします。そうすれば飾り台としても使えるのです。また幅があれば踏み台にもなります。
その他の機能としてはスタッキングと言って“積み重ねる機能”があると来客時に便利になります。

私の好きなスツールは2003年の展示会の出品の為作ったもので同時出品のテーブルと同じ“樹木”をイメージしたデザインで各所に手作業でしかなしえない加工が施されている為手間は掛かりますが個性的な作品に仕上がり好評を得ています。
天板(座板)面は2枚の板が接着なしに並び、意匠で両端にチギリと言う蝶形の象嵌を施してあります。脚部は木の幹をイメージした造形で面は切り出しナイフで成型し丹念にサンドペーパーで仕上げてあります。

当初は幹の凹凸を表現する為ノミ跡をそのままにしようと思いましたが、これはかなり難しく稚拙な技術では“醜悪”な物になってしまうのです。よく言う“ラフ”な仕上げと言いますが「計算された高い技術のラフ」と「稚拙な技術のラフ」は大きな隔たりがあり、今の私はその中間に属しているので、まずは自分の技術をしっかりと見つめた正確な加工を目指し、その中で表現したいと考えています。
 だから意図した凸凹よりもツルッとした面になったのです。
材木は座にミズナラを、脚部にウォールナットを使い、コントラストをデザインにしてみました。

【スツールの製作】

よく作るスツールの構造に丸ホゾと言うのがあるのですが、これはボール盤(ドリル)で開けた丸穴に切り込みを入れた丸棒を差し込みクサビを打って固着させるのですが、作るのはそれほど難しくないのですが、材の含水率が高いと、ホゾが痩せて抜けてしまうのです。
その為、電気コンロで温めた砂利の中にホゾ先を入れ材木中の水分を0%近くまでもっていき、組み立てるのです。そうすればどんな環境でもホゾが緩むことはありません。
無垢材を使うって経験や知識も大事ですが後々の事を考える想像力が一番必要なのだと思っています。

小引き出し
定番の小引き出しは2段でA4サイズの紙が入る大きさの物なのですが、結構机の上にあると便利なのですが、価格が高いのか?あまり売れないのです(苦笑)
これでも安価を目指した構造にし、数個を同時に作りコストも抑えたギリギリ価格なのですよ。  家具って大きさが変わっても手間がそれほど変わらず“小さいクラフト品”程利益が少なくなるのです。と言うより利益が出ないと言っていいほど厳しいのですが、“お客様の要望”や“展示会時の品揃え”という観点からも必要と判断して作り続けています。 でも決して手抜き商品ではなく、使い勝手やデザインも吟味していますよ!!

その定番小引き出しもグループ展の「箱展」の出品の為にデザインしたのですが、この時から“なだらかな曲線”や“R面処理”または“異色材の取り合わせ”などデザイン上の挑戦を始め現在に引き継がれているのです。展示会の為の製作は「デザインの挑戦」「技術の挑戦」「価格の挑戦」などなど沢山意義がありますが、一番重要な点は“追い込まれることによりひねり出される何か”が自分の糧になるのでは…と最近考えています。

だから本当はシンドイのに年1回位は展示会を開かなければ刺激にならないと思い頑張って開催している訳ですが、シンドイのはデザイン等の構想だけでなく金銭的にも、時間も多大なものが必要で、いざ本番の開催期間は心身共にボロボロ状態で、前回なんて目の下にはクマがで、この歳では恥ずかしい吹き出物に悩まされましたねぇ。 

【小引き出しの製作】

 私の場合、指物家具を標榜しているのではなく、デザイン性と耐久性に重点をおいているので、小物の場合は“複雑な組み手”は採用していません。
江戸指物の様に、杢板や組み手(構造)に価値を見出し、高い技術で1個数十万円の値が付けられれば、それも“可”なのでしょうが、工芸品と言うよりは日用品に近いものを作っている私がそれに近づこうとするのは無理があると思い、意識して量産方式に近い方法で作っています。 例えばダボや木ねじによる、あるいは簡単な木組みによる接合で軽量な木工品では充分な耐久性が得られるものならば、こだわらずに採用しているのです。皆様そこのところ御理解を。

盆(トレー)
まず、定番の千鳥格子飾り盆ですが、これもグループ展の際に製作し、発表したものです。千鳥格子と言う構造に興味を持ち、木工雑誌を見て構造を調べ盆に取り入れたものです。 千鳥格子とは建具等に用いる組み方で縦横の材をただ合わせるのではなく、“組み”それに“差し込み”簡単に外れない作りになっています。(木の知恵の輪です)
 
この製作は理屈さえ解れば難しくはないのですが、緻密な作業が要求されます。
組み合わせ部分の嵌めあいが緩いと隙間が出て売り物にならないし、キツイと組めません。縦横何十箇所全てキッチリとしていなければいけないのです。
その為に専用のアジャストカッターと言う幅広の丸鋸(昇降盤)の刃物を購入したのですが、届いてビックリ、9万円弱の値段でした。
一個24,000円の盆をいったい何個作って売ればモトが取れるの~!!って感じですが、ないと困るし・・・。 そうやって少しづつ機械・工具が増えていくのです。

その他に、板組みや框組み、繰り物、なんかの盆が定番にありますが、今の時代、絶対必要で、需要が多い物ではないのか?値段が高いのか?デザインが???なのかは不明ですが盆のヒット商品ってないんですよね~。でもボチボチと出て行くので細々と作り続けています。

【盆・トレーの製作】
 
千鳥格子飾り盆、少し上記しましたが、とにかく真剣勝負!!で丁寧にそして基本に忠実に、“確認”そして“確認”の連続作業で疲れましたが、木工の原点を見直す良い経験になりました。 この盆以降千鳥格子を取り入れた物は作っていませんが、木材が縦横に組み合わされる和のデザインの面白さは注文品には取り入れています。

 額にも様々な技法と言うかスタイルがあり、一般的な留め(45度)に切った材を組み合わせた物と一枚板を繰りぬいた物、その他には木を組み合わせた物があります。

当工房の定番、最初は繰り抜き額のみでしたが留め額も製作し始めました。
展示会やイベントでは必ず問い合わせがある商品ですが、普通の額ではまったく注目されません。特に留め額は手作り感がないのです。
塗装はウレタンやラッカーを施し、機械を駆使して正確に加工しないと45度に組めないし目違いと言って段差が出てしまいます。
なので既製品との差異を出しにくいというのがホントのところでしょうね。

そこで、展示会直前いろいろ考えていましたが、材の色と内側のマット(厚紙)の色で個性を出して展示会に出そうと製作をしていたのです。
もう、展示会の1週間前でギリギリ徹夜仕事で疲労困憊で作業していたら、なんと痛恨のミス、それも初歩的なプロとして恥ずかしい失敗です。
裏側の吊り下げ金具のビス穴をハンドドリルで開けてたら表まで貫通してしまったのです。堅いナラやメープルの後に軟らかいセンを開けたら勢い余って表まで!!
その時は「あぁ~あ、もったいないけど自分用に使うしかないかなぁ~」と思って、分けておいたのですが、作業を終え、反省を込め眺めたり擦ったりしてたら閃いたのです。
「この間違い穴を隠すのに小さいダボを埋めてランダムな水玉模様にしてはどうかなと」そして、1個試しに製作してみたら可愛いのです。
特に白いセンやメープルは色の付いたダボが引き立ちます。 完成した額もバンバン穴を開けダボを埋め新製品の完成!!

失敗から成功に繋がる稀な例となりました(笑)  もちろん展示会ではそこそこ売れましたよ。 ペットや赤ちゃんの写真を飾るには最適です。

【額の製作】

45度の留め額の難しい点は、まずは正確な加工なのです。
4つの角がピッタリくっついていないとダメな訳で、例えば45・5度だと×8だから全部で364度になっちゃう訳で・・・。お話になりません。
ピッタリか、もしくは経年収縮を計算して気持ち外隙位がベストですね。
内側が隙いてはいけません。

その様にして切った材を組み合わせ接着し側面角に丸鋸で引き込みを入れ三角形の材を詰め込み接着すれば完成です。
こう書くと簡単ですが、非常に手間が掛かり1個や2個じゃあ大赤字。まとめて数十個作らないといけないのですが単純作業で飽きます。一人工房で単純作業は辛いけどラジオなぞ聴いて気を紛らわせます。

組み立てが終わったら塗装なのですが、こればっかりはオイルじゃダメなんですよ。 材が乾くと内側が離れてしまい最悪はバラバラに!!
なので、収縮を止める為にも塗膜塗装が必要でラッカーかウレタンを吹きます。

お客様はご理解の上ご購入を。